ごくたまに、「ウサギも犬のように散歩させなくてもいいのですか?」とか
「ウサギを公園や野原につれていきたいのですが」という飼い主さんがいらっしゃいます。
また、巷には「ウ散歩」という言葉もあるようです。
私は、個人的には自宅で飼っているウサギを公園やウサギの行ったことのない野原に連れて行くのには反対です。
もともとアナウサギは巣穴のまわり10メートル位がテリトリーなので、巣穴に近ければ近いほど安心もするし、自信もでて威張っていられるのです。
アナウサギはこの性質だからこそ家畜化されたと考えられています。
保護されたウサギ(この子はシゲと名付けられました)は近くに飼い主らしき人がいなかったことからおそらく捨てられたと思われましたが、飼い主さんが近くにいてもこのような事故はおこると思います。
さて、シゲは事故の当日はなんとか命をつなぐことができました。
私の経験では、レントゲンではっきりとわかるような脊髄損傷のウサギは長く生き延びる事は出来ません。カルテを調べても最長3か月位で多くは2週間以内に死んでしまうようです。
車イスのようなものを装着したウサギの写真をネットでみかけることがありますが、たいていはあそこまで生きつくことができないのです。
このことを保護したご夫婦にお話しすると、どのような結果になっても精一杯看病したい、飼いたいと希望されました。お二人とも意見は同じようでした。
とりあえず、ショック状態から抜け出したところで自宅にかえって療養することになりました。状態をみながら数日ごとに通院してもらう算段です。
ご夫婦の自宅に連れて帰ってもらったシゲは、強制給仕や排泄の世話、体位変換と投薬といった手厚い看護で自分から餌を食べるようになりました。
事故のあと、2回ほど通院してなんとか窮地は脱したかなと思われた後、数日して、以下のようなお便りをいただきました。
「前略ごめんくださいませ、
私はシゲという後ろ足の悪い白黒のウサギの飼い主でございます。
せっかく、先生に診ていただきましたのに、昨日の朝、急に元気がなくなり死んでしまいました。また先生のところに伺おうと思っていた矢先でした。
シゲの突然の死に悲しみはつきませんが、2週間一緒に過ごしたこと、生涯忘れることはないと思います。先生にもいろいろお世話になり本当にありがとうございました。心よりお礼申し上げます。
では、残暑厳しき折、どうぞご自愛下さい
草々」
私はシゲに代わってお礼の手紙をこのご夫婦に書きました。
兎生最後の2週間、ウサギは身体的にはつらかったとは思いますが、少なくとも愛情をそそいでもらった最後でした。
その後このご夫婦は私の病院にいらっしゃることはありませんでした。
どこかに引っ越されたのかもしれませんし、ウサギを飼ってないのかもしれません。
ただ、とても仲良くいまも暮らしていらっしゃると思いますし、ウサギを見ればきっと今もシゲのことを思い出してくれていると思います。