Mちゃんの治療のめどがつき、ほっとしたのか、ここからの記憶がやや曖昧になるのですが、カルテによると、持ち帰ったハリのうち2番目のハリネズミ(抜くのに1番目ほど苦労しなかった方)のハリからは同じ真菌が分離され治療をおこないました。
ハリを抜くのに苦労したハリネズミとプレーリードックからはなにも分離されず、治療は初診から約60日で無事終了しました。
佐野先生は分離した真菌について論文発表され、さらに全国のハリネズミ愛好家に呼びかけてハリを収集し、真菌の分離を行いました。
その結果、4割近くのハリから同じ真菌が分離され、この真菌が全国的にハリネズミの間で流行っており、日本に定着している可能性が高いことを証明されました。
私の個人的な意見ですが、実際には真菌を持っているハリネズミの数は4割以下だと思っています。あの苦労したハリの採材を思えば、
『ハリください』
『は〜い』というわけにはいかないので、すでに抜けやすくなっている個体からの採材か、脱針がおこっている、(毛を持つ動物でいえば、抜け毛の多い)個体からのハリだと思うからです。
もし、今このブログをお読みになっていて心配になった方は、試しにハリを引っ張ってみてください。あなたのハリネズミが思いっきり怒り、ピンセットで頑張ってもハリが抜けなかったらたぶん大丈夫です。
ただし、あなたのハリネズミがかなり機嫌を損ねることを覚悟してなさってください。
あれから15年がたち、佐野先生は琉球大学の教授になり、海洋生物の真菌の研究に邁進されています。髪を茶髪にされてますますお元気そうです。
私のほうは相変わらず町の小さな動物病院をほそぼそとやっています。
15年間仕事を続けてこられたことに感謝しながら、日々動物たちと向き合っています。
ハリネズミの診療ができるようになったかですか?
残念ながらまったくダメです。運良くというと語弊がありますが、あれからハリネズミの患者さんはまったく来院せず、ハリネズミは私にとってよくわからない、従って診察できない動物のままです。
たった数回の診察でしたが、Mちゃんが私にとって忘れられない患者さんであることには変わりありませんが。