最初に診せていただいたハリネズミには可愛らしい名前がありましたが、このプログではとりあえずM ちゃんとさせていただきます。。
飼主さんには、Mちゃんのハリから真菌が分離された事はすぐにご連絡し、真菌の治療を始めるとともに、千葉大に生えた真菌を送って調べていただくということは事前にご了承いただいていました。
飼主さんのお宅にはMちゃんの他に、2匹のハリネズミと一匹のプレーリードックが飼われていました。
これらの動物たちにも真菌や、ダニが感染しているかもしれません。
ダニにかんしては、他のハリネズミたちにも薬を2回飲ませていました。
佐野先生に同行された皮膚科医のT先生は当時、真菌で学位論文を執筆中でした。おそらく飼主さん家族の様子も聞き取りたいということで同行されたとおもいます。
人間も同居している動物に含まれますので、症状があったら専門家に確認してもらったほうがいいのです。
そんなこんなで、佐野先生ご一行と飼主さん家族ご一行が、なみき動物病院に集合したのは、Mちゃんの初診から20日あまりたってからのことでした。
来院した佐野先生は、まずMちゃんの写真をとらせて欲しいと希望されました。
続けて、同居動物(この場合は人間を除いて)のハリと毛を採材(つまり引き抜いて)して大学に持ちかえって培養したいともおっしゃいました。
ダニについては私が顕微鏡で確認することとしました。
このとき私はてっきり、採材は真菌の専門家である佐野先生がなさるものと考えて、引き抜き用の鉗子を先生に渡そうとすると、佐野先生は一歩さがって
「先生どうぞ」と私を前面に押し出しました。
動物病院に行ったことのある方はご存知だと思いますが、動物病院の診察室には、中央に動物をのせる診察台というものがあります。私の病院にある診察台は横60センチ横100センチの体重計をかねたものです。
その診察台の上にMちゃん以外のハリネズミ(一匹目)を乗せ、毛抜き鉗子を両手に持ってハリを2〜3本いただくという算段でした。
診察台の周りには、佐野先生、同行の皮膚科医T先生、飼主さんご夫婦、病院のスタッフが顔を寄せ、ひしめきあって私の手元をみつめます。
ハリネズミを飼ったことのある方はご存知だと思いますが、ハリネズミはストレスをうけて
怒ったりびっくりしたりすると、シューシューという声をだし口から白い泡のような唾液をだすとともに、ハリを立てて身をまもろうとします。
ハリを支える筋肉は硬直し、まさにハリネズミ状態になります。
こうなると、とても素手では触れなくなります。
ちなみに機嫌のいいときにはハリは横にたおれて、飼主さんは撫ぜたり抱っこしたりできるそうです。
診察台にのせられたハリネズミは当然すぐにハリネズミ状態になりました。
私は毛抜き鉗子を両手に一本ずつ持ち、一本で、ハリの根本をおさえ、もう一本でハリの先を挟んで引き抜こうとしました。
ところがところが、そうとうな力を込めてもハリは抜けてこないのです。気軽に抜けたMちゃんのときとは全くちがいました。
診察台のハリネズミは,口から白い泡を吹きながらシューシューと怒り、思いっきり身体を硬くしハリをピンピンにしてきます。診察台を囲む面々はいっそう身を乗り出してきて私の手元をみつめます。
私は毛抜き鉗子をラジオペンチに持ち替えて、気合いをこめてやっとこさハリ一本を引き抜きました。
当初、佐野先生
「まず、2〜3本ぬいてください」
私
「わかりました〜」とはじめたのですが、とても2本目にいく雰囲気ではありません.飼主さんご夫婦も心配が顔に張り付いたままです。
やっと抜いたハリを培養につかい、ダニについては虫めがねで体表を観察することにしました。幸いなことにこのハリネズミにはダニはみつかりませんでした。
ハリネズミは逃げ足もおそく、噛み付くこともひっかくことも出来ません。身を守るためにハリを支える筋肉を締めてハリを立て、自分に触れるものにハリが刺さるようにするのでしょう。
ノロノロしているからハリが生えてきたのか、ハリを持つようになってのんびり屋さんになったのか、私は後者のほうだと思いますが、進化とはおもしろいものですね。
2匹目のハリネズミでは、これほど苦労することはなく、最後のプレーリードックにいたっては、単なる毛ですから束にして抜いてもあまり痛がりもせず、無事すべての採材は終了しました。
ダニ(Mちゃんについていたヒゼンダニ)はどの個体からも検出されませんでした。
薬を投薬したこと、プレーリードックはもちろん、ハリネズミもそれぞれ別のケージで飼育され、飼主さんがきちんと管理されていたことが幸いしたようでした。
飼主さんご夫婦にも真菌の症状はでていなかったと記憶しています。
真菌の検査結果とその後のハリネズミたちの様子は次のプログに書いていきますね。