(「ハリネズミのお話」その1から続きます)
脱針ハリネズミ君を診療した当時、私の病院では子猫や子犬の皮膚真菌症(簡単にいうと水虫ですね)が多く、ちょうど新しい真菌培養キットを購入したところでした。
飼主さんに雑談しながらそのことを何の気なしにお話すると、是非カビの培養をしてほしいと希望されました。
今も昔もハリネズミには素人の私ですが、どうやら愛好家の間にはハリネズミは水虫にもかかりやすいと噂があったようなのです。
そこで針を2〜3本引き抜いて培養ボトルに植え込み培養することにしました。
このとき針はいとも簡単に抜けたので、さわったら痛いハリといっても所詮は毛の変化したもんだろうな、などと考えたのですが、これが素人の無知なところで、あとでハリネズミのハリが本来はなかなか手強いことを思い知ることになります。
ダニ退治に使う薬のハリネズミ使用量は手持ちの文献や、専門書を開いてもどこにも書いてなかったので、とりあえずゴールデンハムスターの半分量を使ってみて、副作用がないようだったら量をふやすこととしました。
飼主さんには本当に申し訳ないのですが、臨床家は初めての症例や、珍しい病気を診断するとついつい気分が高揚、つまりワクワクしてしまうことがあり、特に治せると確信したときはよりいっそうほっぺが緩みます。
私もこのとき、ついニコニコしながら培養ビンのふたを開けた記憶があります。
飼主さんご夫婦は気を悪くなさったかもしれません。
このときはダニはなんとか治せると思い、後から騒動のもとになる水虫についてはあまり深く考えてはいませんでした。
真菌用の培養温度で培養したところ、4日くらいで培地は赤変し真っ白なカビが生えてきました。病原性真菌が増殖してきた証拠です。
生えた生えたと喜んではみたものの(不謹慎ですみません)家畜や犬猫の真菌については多少知識はあっても、アフリカ産のハリネズミではどのように取り扱えばいいのか困ってしまいました。
そこで私は何でも知ってる親友の佐伯獣医師に電話をかけて相談してみました。
当時も今現在も彼女は大変な勉強家で、診療の休みの日には必ずどこかの勉強会や講習会に参加して、診療のレベルアップに努力していたのです。
いつもの調子で相談した私に、彼女はいつもの調子ではなく意外なことを電話口で話しました。
その3に続きます。