さて、そうこうしながらも準備は進み、いよいよ麻酔をかけて臼歯を診る日がやってきました。
私の場合は今もそうなのですが、器具や道具の足りないところは人の手でなんとか間に合わせようと考えます。つまり人数を集めるという方法ですね。

当時スタッフは1人だけだったので、近所の実家の母を呼びました。
結局、飼主さんと小学生の息子さん(夏休みだったので)が参加してくれて、獣医師1人と動物看護師1人、立ち会い人というか、お手伝い3人の計5人でやる事になりました。
現在はスタッフでない方になにかをしていただくということは全くありませんが、ウサギの臼歯の処置の場合は可能なら飼主さんに立ち会っていただくようにしています。
手術のように清潔な空間を確保しなければならない場合は無理ですが、臼歯の場合は、一緒に口腔内を見ていただいてどこが傷ついているのかを確認していただいたり、歯列がどれほど変形してしまっているかを見ていただきたいからです。

さて、各自の役割分担は次のようなものでした。
「スタッフ」 上下の切歯にゴムの管をかけて口を開き併せて獣医師のやりやすいように頚の角度を調整する。
「母」      吸入麻酔用マスクをウサギの鼻にしっかりあて併せてライトを調整してウサギの口の中を照らす。
「飼主さんの息子さん」 ウサギの胸の動きをみて呼吸しているかどうかを確認する。
「飼主Oさん」 獣医師と一緒にウサギの口の中を確認し、あとは成功するように念じる。
どの役割も重要です。

準備が整い、麻酔をかけて口を大きくひらいてみると、右の下顎の臼歯の丈が他より長いように感じました。今現在はまず口腔内に傷や潰瘍がないかを確認して処置にはいるのですが、なにしろ初めてですから、左右を比べたり前後を比べたりしながらどの歯が原因かさぐっていきました。

後から経験をつんでわかったことですが、この症例は原因歯の特定が難しい症例でした。見えやすいところに潰瘍はなく、右側の下顎の前から3番目の臼歯の丈が他の2倍くらいあって上の歯茎にあたっていたのです。本来その歯があたるはずの上側の臼歯は歯がほとんど見えず、歯茎がむきだしになっていました。このせいで臼歯をかみ合わせることができないのではないかと考えました
そこで、この歯をヤスリで削って丈を短くすることにしました。
このとき私が使ったのは、細くてちいさい工具用のヤスリだけです。
以前のプログにも述べていますが、歯は骨よりも強い組織です。狭い口のなかで細かく左手を動かして一本の歯をけずっていくのには時間もかかりましたし、
親指のつけねがしびれて感覚がなくなったことを覚えています。
加えて、ミーコの呼吸も安定しない場面があり、目的の歯を削りおえたときには一同ヘトヘトになりました。

後は吸入麻酔を酸素にきりかえて麻酔から覚めるのを待つばかりです。
皆一様にほっとして、寝ているウサギに「ミーちゃん頑張った、頑張った」と声をかけているうちに、呼吸をみてくれていた息子さんが床にすわりこんでしまいました。
ウサギの呼吸に集中し、息をつめていたために酸欠状態になってしまったのです。
口の中を見ることができて、作業の進み具合を確認できた大人とちがい、彼は後方で、一番大事な役目をうけおいながら、ひたすら呼吸をみなければいけませんでした。責任感のつよい優秀な小学生だと感心したことを覚えています。
あれやこれやありましたが、ミーコは無事麻酔から覚めました。

臼歯の処置の結果はどうだったのか、次プログに書いていきます。

kiku