(「ハリネズミのお話」その2から続きます)

電話口で私は「ハリネズミの針を真菌培養したら生えてきてさ〜」と気楽に話だしました。
いつも通り「ふ〜ん、そうなの〜」という答えがかえってくるかと思いきや、
「培養ボトルのふたはきっちり閉めてからテープで密封し、絶対に胞子(生えてきた真菌の種のような物)を顕微鏡で確認しようとしたらダメだよ」
いつもと違って、とても早口でしゃべりだしました。口調はとても真剣です。

彼女は電話の一週間前に、練馬区獣医師会が主催した勉強会に出席していました。
講師は千葉大の佐野先生で、先生は獣医師で且つ、真菌の専門家でした。
講演内容は「国内だけでなく、海外から入ってくる可能性のある動物由来真菌症について。」だったそうです。
そこで佐野先生は、
「アフリカのハリネズミには人にとってとても恐い真菌を持つ個体がいる。」と言っていたそうです。
佐伯獣医師は
「とにかく、早く、佐野先生に電話して、指示をあおいでからその真菌を送れ」と言って連絡先をおしえてくれました。

早速電話してみると、佐野先生はとても話しやすい先生で
「ハリネズミですか、それは調べた方がいいですね。こちらに送っていただけますか。」とうれしそうに答えていただきました。
私は、
「送るっていっても、佐伯さんが恐ろしい真菌だって言ってたんですけど、普通には送れませんよね。」と恐る恐る言いました。

すると佐野先生は、
「佐伯先生がおっしゃっていたのはヤマアラシのことですね。ヤマアラシの針には病原性の高いブラストミセスやコクシオオイデスが付着している事があり、これらは非常に危険です。
ヨツユビハリナズミでは病原性のさほど強くない皮膚糸状菌が海外で報告されていますが、日本ではまだ分離されていません。」

ハリネズミに輪をかけてヤマアラシにも疎い私は、最初???
だったのですが、どうやら佐伯さんはヤマアラシと聞いてハリネズミを連想したようなのです。
無理もありません。講演を聞いても、私ならヤマもハリも忘れてしまい頭にのこらなかったでしょう。
この連想のおかげで日本初分離が報告されたのですから、この発見の立役者は佐伯獣医師ですね。

結局、私の病院で生えた真菌は、密封の上、通常の検体と同じように送ってもいいことになり、佐野先生には真菌の種類を同定していただくことになりました。
当時のカルテを読み返すと、検体を送る前から真菌にたいする治療を開始し、7日目の再診時にはダニ退治の効果もあいまって、皮膚の状態はかなり改善されていました。

検体を送って一週間をすこしすぎた頃、佐野先生から電話がありました。
その内容は、分離された真菌は遺伝子解析の結果から今まで日本では分離されたことのない、皮膚糸状菌(水虫)である。ついては、皮膚科医を一人ともなってそちらの動物病院にうかがうので、そちらで飼主さんと面談できないか。
というものでした。
小さな動物病院にしてはなんだか大仰なことになってきました。

飼主さんご夫婦がやってきてからの顛末は次回にかいていくことにします。